大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和50年(行ケ)2号 判決 1976年6月28日

原告

古川敏夫

外六名

右七名訴訟代理人

嶋田幸信

被告

香川県選挙管理委員会

右代表者委員長

川井顕三郎

右指定代理人

石井高廣

外二名

右訴訟代理人

大西美中

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  申立

一、原告ら訴訟代理人は、「被告が、昭和五〇年四月二七日執行の香川県坂出市議会議員一般選挙における当選の効力に関する原告らの審査請求に対し、同年八月一六日にした裁決を取消す。右選挙における候補者川田正文の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求めた。

二、被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二  主張

(原告らの請求原因及び主張)

一、原告古川敏夫(原告古川という)及び訴外川田正文は、いずれも昭和五〇年四月二七日執行の香川県坂出市議会議員一般選挙(本件選挙という)に立候補し、その余の原告六名は、右選挙における選挙人であるが、開票の結果、香川県坂出市選挙管理委員会選挙会(選挙会という)は、原告古川の得票数を八六〇票、候補者川田正文(候補者川田という)の得票数を八六一票と決定し、右川田を最下位の当選人と決定し、同月二八日その旨告示し、原告古川は次点となり落選とされた。

なお、右選挙における各候補者の氏名、得票数、当落の別は、別紙一覧表記載のとおりである。

二、原告らは前記決定を不服とし、法定の期間内に香川県坂出市選挙管理委員会(市選管という)に対し、候補者川田の当選の効力に関し、異議の申出をしたが、市選管は、同年五月三一日異議の申立を棄却する旨決定したので、原告らは、さらに、同年六月二〇日被告に対し審査申立をしたところ、被告は、同年八月一六日市選管の前記決定に誤りはないとして原告らの審査申立を棄却する旨裁決し、裁決書を同日原告らに交付した。

三、しかしながら、

(一) 選挙会が候補者川田正文(「かわだまさふみ」と音読する。)の有効投票と決定した八六一票中左記①ないし⑨の投票計九票は左記理由により、いずれも無効投票とされるべきである。

(1) 左記五票は、いずれも候補者の何びとを記載したか確認し難い。

(イ) 「川」と記載されたすぐ下に四字が記載され、右四字を抹消したうえ、抹消された文字の右側に「田マ文」と記載された投票一票(第一回検証調書添付写真番号4の投票、以下写真番号のみを表示する。①の投票という)

(ロ) 「川田区人」と記載された投票一票(写真番号5、②の投票という)

(ハ) 「川田」と記載され、右「田」の部分を鉛筆で薄く抹消してあるため、「田」の部分が読みとれない程には至つていない投票一票(写真番号6、③の投票という)

(ニ) 文字一字が記載され、右一字を抹消したうえ、その右下に「文」と記載された投票一票(写真番号9、④の投票という)

(ホ) 「川田」と記載され、そのすぐ下に判読不明の文字三字が記載された投票一票(写真番号12、⑤の投票という)

(2) 左記二票は候補者でない者の氏名を記載したものである。

(イ) 「川田正己」と記載された投票一票(写真番号8、⑥の投票という)

(ロ) 「川田晴」と記載された投票一票(写真10、⑦の投票という)

(3) 「川田正文」と記載した右側に「日本杜会党」と記載された投票一票(写真番号11、⑧の投票という)はいわゆる他事記載に該当する。

(4) 投票用紙の候補者の氏名欄に記載がなく、その裏面に「川」と記載された投票一票(写真番号13、14、⑨の投票という)は、いわゆる白紙投票であり、仮りにそうでないとしても候補者の何びとに投票したか確認し難いから無効とすべきである。

なお、被告主張の⑬の投票一票が選挙会が無効投票と決定した投票中にあること、右投票に被告主張のとおりの記載があることは認めるが、右投票は候補者でない者の氏名を記載したもので無効投票とすべきである。

(二) 次に、

(1) 選挙会が無効投票と決定した投票のうち左記⑩、⑪の投票計二票は、いずれも「古川敏夫」と判読できるから原告古川敏夫(「ふるかわとしお」と音読する。)の有効投票とすべきである。

(イ) 「古り」と記載された右側に「カシ」と記載された投票一票「写真参号26、⑩の投票という)

(ロ) 文字三字を抹消したすぐ下に「川土(ノトシンヲ)」と記載された投票一票(写真番号27、⑪の投票という)

(2) 選挙会が候補者吉川久旺(「よしかわひさお」と音読する。)の有効投票と決定した投票中「吉川としを」と記載された投票一票(⑫の投票という)は原告古川の有効投票とすべきである。

なお、被告主張の⑭の投票一票は選挙会が原告古川の有効投票と決定した投票中にあること、右投票に被告主張のとおりの記載があることは認めるが、右投票が無効投票であるとの被告の主張は争う。右投票は、「〇」の記載が投票用紙の候補者の氏名欄に記載されたものではないから他事記載と解すべきではなく、原告古川の有効投票とすべきである。

四、したがつて、候補者川田の得票数は、選挙会が同候補者の有効投票と決定した八六一票から①ないし⑨の投票計九票を控除した八五二票となり、原告古川の得票数は、選挙会が同原告の有効投票と決定した八六〇票に⑩ないし⑫の投票計三票を加算した八六三票となり、候補者川田の得票数は原告古川の得票数を下廻ることになるから、候補者川田の当選は無効であるのにもかわわらず、本件選挙における選挙会の決定を維持した市選管の投票の効力決定に誤りはないとし、原告らの審査申立を棄却した被告の裁決は違法であるから、その取消を求め、併せて候補者川田の当選の無効確認を求める。

(被告の答弁及び主張)

一、原告らの請求原因及び主張一、二に記載の事実はいずれも認める。

二、同三に記載の事実中、本件選挙において、選挙会が候補者川田正文の有効投票と決定した八六一票中に①ないし⑨の投票計九票があつたこと、無効投票と決定した投票中に⑩、⑪の投票計二票があつたこと、候補者吉川久旺の有効投票と決定した投票中に⑫の投票があつたこと、①ないし⑫の投票にはいずれも原告ら主張のとおりの記載がなされていること、候補者川田正文は「かわだまさふみ」と、同吉川久旺は「よしかわひさお」と、原告古川敏夫は「ふるかわとしお」とそれぞれ音読されることは認める。原告らの投票の効力に関する主張中⑫の投票一票を原告古川の有効投票とすべきであるとの主張は認めるがその余の主張はすべて争う。すなわち、

(一) 原告ら主張の①ないし⑨の投票計九票は、左記理由により、いずれも候補者川田に対する有効投票とすべきである。

(1)(イ) ①の投票は、文字に習熟しない選挙人が「川田正文」と記載しようと努力した投票であつて、有意の他事記載とは認められない。

(ロ) ②の投票は稚拙な記載ではあるが、候補者中「川田」なる姓を有する者は候補者川田のみであるから、文字の配列、筆跡等からみて、全体として「川田正文」と記載したものというべきである。

(ハ) ③の投票は、第一字は明らかに「川」と記載され、第二字は「田」と判読できるもので、有意の他事記載とは認められず、全体として「川田」に読めるものである。

(ニ) ④の投票は、書損じを抹消して「川田正文」の名を記載したものと認められ、有意の他事記載とは認められない。

(ホ) ⑤の投票は、前記(ロ)に記載の理由と同一の理由により候補者川田に対する有効投票とすべきである。

(2) ⑥、⑦の投票は、いずれも「川田正文」の「文」の一字が異なるのみで記憶違いと認められるうえ、候補者中「川田正」までを同じくする者は候補者川田のほかにはいない。

(3) ⑧の投票に記載された「日本社会党」は有意の他事記載に該当しない。

(4) ⑨の投票は投票用紙の裏面に記載されているが有効と解すべきであり、右裏面の記載は稚拙な記載ではあるが、第一字は明らかに「川」と記載され、第二字は「田」と書こうとして明確に書けなかつたものと認められ、記載全体から「川田」と判読することができる。

のみならず、選挙会が無効投票と決定した投票中に「川田正あき」と記載された投票一票(写真番号72、⑬の投票という)があるが、右投票は前記(2)に記載の理由と同一の理由により、候補者川田の有効投票とすべきである。

(二)(1) 原告らの主張の⑩、⑪の投票は、候補者の何びとを記載したかを確認し難く、また⑩の投票に「カシ」と記載された部分は他事記載に該当するから、いずれも無効投票とすべきである。

のみならず、選挙会が原告古川の有効投票と決定した投票中投票用紙の候補者の氏名欄に「古川敏夫」と記載したほか右欄外に印刷された注意の頭柱数字「二」を「〇」で囲んだ投票一票(写真番号32、⑭の投票という)は、「〇」を記載した部分がその位置、筆勢及び運筆の方向からみて、誤つて不用意に記載されたものとは認められず、いわゆる有意の他事記載にあたるから無効投票とすべきである。

三、そうすると、候補者川田の得票数は、選挙会が同候補者の有効投票と決定した八六一票に⑬の投票一票を加算して八六二票となり、原告古川の得票数は選挙会が原告古川の有効投票と決定した八六〇票に⑫の投票一票を加算し、⑭の投票一票を控除すると八六〇票となるから、候補者川田を当選人とした被告の裁決に何ら違法の点はない。

第三  証拠<略>

理由

一原告らの請求原因及び主張一、二記載の事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、先ず、候補者川田の有効得票数について検討する。

本件選挙において、選挙会が、同候補者の有効投票と決定した八六一票中に原告ら主張のとおりの記載のある①ないし⑨の投票計九票があつたこと、無効投票と決定した投票中に被告主張のとおりの記載のある⑬の投票一票があつたこと、同候補の氏名は「かわだまさふみ」と音読されることは当事者間に争いがない。

(1)  原告らは、①ないし⑤の投票計五票は候補者の何びとを記載したのか確認し難いから無効投票とすべきであると主張する。

しかして、公職選挙法六八条七号は公職の候補者の何びとを記載したか確認し難い投票を無効投票とする旨規定しているけれども、同法六七条後段に投票の効力決定にあたつては同法六八条の規定に反しない限りにおいて投票した選挙人の意思が明白であればその投票を有効投票としなければならない旨規定していることからすると、ある投票が候補者のうちのある特定の者の氏名を記載したものと認められるかどうかは、投票の記載が人の氏名を指すとはとうていいえない場合、あるいは候補者のうちの何びとをも記載する意思がないものと認められる場合などは別として、このような場合にあたるといえない以上は、原則として、右誤記、誤認などの可能性が認められる範囲で全体としてこれに最も近似した氏名をもつ候補者に対する有効投票とすべきであると考えられる。したがつて、

(イ)  ①の投票は抹消された部分を除外すると「川田マ文」と記載された投票ということができ、右の記載は、候補者川田の性と全く一致し、その名の二字のうち一字を同じくし、単に一字を異にするのにすぎない。しかも同候補者の名は「まさふみ」と音読されるところ、右の投票は名の部分を「マフミ」と音読できるから、同候補者の名の「正」の字をかたかなで記載しようとして「サ」の一字を遺脱したものと推認することができる。したがつて、右投票は、無効とすべきではなく、同候補者に対する有効投票とするのが相当である。

(ロ)  ②の投票は稚拙な記載ではあるが「川田区人」と記載されたものと認められるところ、右記載中「川田」の二字は候補者の姓と全く一致するばかりでなく、前記「区」の字は「正」の行書体である「」と字形が相当に類以しており、また、同候補者の名のうち「文」の字と前記「人」とは「」(なべぶた)の有無を異にするのみでその字形が類以していることを綜合すると「人」の文字は同候補者の名を誤記したものであると推認することができる。したがつて、右投票は無効投票とすべきではなく、同候補者に対する有効投票とすべきである。

(ハ)  ③の投票は、検証の結果(第一回)によると、「川」と記載されたすぐ下に「田」の記載がなされ、右「田」の部分が後記のとおり抹消されているとはいえ、右文字が読みとれない程ではないから右の記載自体からすると「川田」と判読することが全く不可能というわけではないが、右「田」の中心部分及び「」の部分にそい、記載した字を重ねてなぞつたものでなく、意識的に抹消したあとがかなり明白に認められる。したがつて、右投票は「川」の一字を記載した投票というべきところ、本件選挙における候補者中「川」の字の含まれる氏名の候補者は、前記川田のほか原告古川及び吉川久旺の二名が存在するから、結局右投票は候補者のうちの何びとを記載したか確認し難く、無効投票というべきであるといわざるを得ない。

(ニ)  ④の投票は、抹消された部分を除外すると「文」となり右「」は「正」の行書と認められるから、右投票は候補者川田の名と一致する記載があるものということができる。もつとも右の投票には姓の記載がないけれども姓に相当する部分の書損じを訂正する趣旨でこれを抹消しながらその記載を失念したものと推認できないわけではなく、本件選挙において、「正文」なる名の候補者は同候補者以外には存在しないから、右投票は無効投票とすべきではなく、同候補者に対する有効投票とするのが相当である。

(ホ)  ⑤の投票は、候補者川田の姓と全く一致する記載がなされ、その下に記載された三文字が判読できないけれども、本件選挙において、候補者中「川田」なる姓の候補者は候補者川田以外には存在しないうえ、姓の一致は日常他人間の呼称に姓のみを慣用する生活習慣からするとその対象への指向性に富むことが否定できないところであつて、前記(ニ)の場合に比較してより一層強い理由で同候補者へ投票しようとする意思をもつて記載したものと推認できるから、右の投票は無効投票とすべきではなく、同候補者に対する有効投票とすべきである。

(2)  次に、原告らは、⑥、⑦の投票計二票は候補者でない者の氏名を記載したもので無効投票であると主張し、被告は、⑬の投票は候補者川田の名の一字を記憶違いして記載したもので同候補者に対する有効投票であると主張する。

しかして、公職選挙法六八条二号によると、公職の候補者でない者の氏名を記載した投票は無効とされるのであるが、それは、記載された氏名の人物が他に実在し、ことさらその者に投票したものと認められる場合とかそうでなくても候補者の氏名を誤記したものか候補者でない者の氏名を記載したのかいずれとも推測し難いような場合などを指すのであつて、選挙人は候補者に投票する意思をもつて投票用紙に記載するのが通例であるから、多少の誤字があり、候補者の氏名に完全に一致していない場合であつても類以氏名の候補者に投票する意思があると推認することができる場合にはこれを無効とすべきではないと考えられる。前記⑥、⑦及び⑬の投票は、いずれも、候補者川田の氏名と完全に一致した記載がないけれども、右各投票に記載された氏名の人物が他に実在するとの証拠はなく、かえつて、右各投票の「川田正」又は「川田」と記載された部分は候補者川田の氏名の上位の三字と完全に一致し、(但し、⑦の投票の第三字の「」は「正」の行書体である。)本件選挙においてその氏名の上位の三字が「川田正」なる候補者は候補者川田以外には存在しないから、右投票三票はいずれも同候補者の名のうちの「文」の字を誤記したものと推認でき、これを無効投票とすべきではなく、同候補者に対する有効投票とするのが相当である。

(3)  原告らは、⑧の投票は、いわゆる他事記載にあたるから無効投票であると主張する。

弁論の全趣旨によると、候補者川田は日本社会党に所属するものと認められ、⑧の投票は候補者川田の氏名にその所属政党名を併記したものということができる。したがつて、右の記載は候補者の特性をあらわす広義の身分事項に該当するものと考えられるところ、候補者の氏名のほか他事を記載した投票であつても、職業、身分、住所又は敬称の類の記載は投票無効原因たる他事記載にあたらない(公職選挙法六八条五号但書)から、右投票は無効投票ではなく、同候補者に対する有効投票とすべきである。

(4)  原告らは⑨の投票は、白紙投票であり、そうでないとしても、候補者の何びとを記載したのか確認できないから無効投票であると主張する。

しかし、投票用紙の候補者の氏名欄に記載がなく、その欄外の部分(投票用紙の裏面を含む)に候補者の氏名を記載した投票であつても、右の一事をもつてよだちにその投票を無効とすべきではなく、いやしくも右欄外の記載から選挙人が特定の候補者に投票したものであることが認められ、他に右記載が選挙の自由と公正を害するものと認むべき特段の事情が認められない限り、右欄外に候補者の氏名を記載した投票であつても有効とするのが相当である。前記投票は、投票用紙の候補者の氏名欄に何ら記載がないけれども、その裏面には「川」なる記載があり、右「」の字は字形上「田」の字を記載しようとして稚拙に記載せられたものということができる。そして、右裏面の記載は前記(1)の(ホ)に説示したところと同一の理由により候補者川田に対し投票する意思で記載されたものと推認でき、右記載が投票の自由と公正を害するとの特段の事情を認め難い本件においては、右投票は同候補者に対する有効投票とすべきである。

したがつて、候補者川田の有効投票数は、選挙会が同候補者の有効投票と決定した八六一票から右投票中の③の投票一票を控除し、選挙会が無効投票と決定した投票中の⑬の投票一票を加算した八六一票ということになる。

三次に、原告古川の有効得票数について検討する。

本件選挙において、選挙会が無効投票と決定した投票中に、原告ら主張のとおりの記載のある⑩、⑪の投票計二票があつたこと、候補者吉川久旺の有効投票と決定した投票中に原告ら主張のとおりの記載のある⑫の投票一票があつたこと、原告古川の有効投票と決定した投票八六〇票中に被告主張のとおりの記載のある⑭の投票一票があつたこと、候補者吉川久旺は「よしかわひさお」と、原告古川敏夫は「ふるかわとしお」とそれぞれ音読されること、⑫の投票一票は原告古川の有効投票とすべきであることは当事者間に争いがない。

(1)  原告らは、⑩、⑪の投票計二票は、いずれも、「古川敏夫」と判読が可能であるから、原告古川の有効投票とすべきであると主張する。そして、ある投票が候補者の何びとを指すのか全く判断し難い場合などは別として、そのような場合にあたるといえない以上は原則として誤記、誤認などの可能性が認められる範囲で全体としてこれに最も近似した氏名を持つ候補者に対する有効投票とすべきであることは前記二の(1)に説示したとおりである。しかし、⑩の投票は、「古」の字のすぐ下に記載せられた「り」は「川」と類以性がないとはいえないけれども、「カシ」の文字は原告古川の名を指向したとみることは困難であつて、これを全体としてみるときは原告古川の氏名を誤記した範囲をはるかに超え、候補者の何びとを記載したかを確認し難いものといわざるを得ない。のみならず、かりに右投票の「古り」の部分が原告古川の姓を誤記したものであるとしても、その右側に併記された「カシ」の文字は、検証の結果(第一回)により認められるその位置、形状等を綜合すると、いわゆる有意の他事記載に該当するものというべきである。したがつて、右投票は原告古川に対する有効投票とすべきではなく、無効投票であるといわなければならない。次に、⑪の投票は抹消した部分を除外すると、「川土(ノトシンヲ)」と記載せられており、右「川(ノ)」は原告古川の姓のうちの「川」の字に外形上類以し、右「トシンヲ」の部分は原告古川の名「としお」と音感が類以しているけれども、右の「川(ノ)」なる文字は文字としては存在しないし、右「トシンヲ」とその左側に記載された「土」の部分とを全体としてみるとき右の記載は「古川敏夫」の誤記の範囲内にあるとはとうていいい難い。したがつて右の投票は、結局候補者の何びとを記載したのか確認できず、無効投票であるといわなければならない。

(2) 次に、被告は、⑭の投票は、有意の他事記載に該るから無効投票であると主張する。そして、いわゆる有意の他事記載のある投票については、秘密投票主義に由来し選挙が選挙人の自由に表明した意思により公明且つ適正に行われることを担保するため、これを投票無効原因としたものであることに照らすと、その他事記載のなされた場所は、投票用紙の候補者の氏名欄の内外を問わないものと解すべきところ、右投票は、投票用紙の候補者氏名欄に原告古川の氏名を記載したほか右欄外に印刷された注意の頭柱数字「二」を「〇」で囲んだものであつて、右「〇」の記載は、公職選挙法六八条五号但書のいずれにも該当せず、しかも、氏名を記載した下部に慣用的あるいは無意識的に付されることのある「。」、「、」などの記載と異なり、ことさら目立ちやすい印刷された頭柱数字を「〇」で囲むことは有意の他事記載といわざるを得ないから、右投票は無効投票であるといわなければならない。

したがつて、原告古川の有効得票数は、選挙会が原告古川の有効投票と決定した八六〇票に、候補者吉川久旺の有効投票と決定した投票中の⑫の投票一票を加算し、原告古川の有効投票と決定した⑭の投票一票を控除した八六〇票ということになる。

四以上の理由により、候補者川田の有効得票数は八六一票であり、原告古川の有効得票数八六〇票を一票上廻ることになるから、同候補者は本件選挙の当選人というべきであり、その当選を無効であると主張する原告らの審査申立を棄却した被告の裁決には違法の点はないといわなければならない。

よつて、原告らの本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(秋山正雄 下村幸雄 福家寛)

<別紙一覧表省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例